ハリネズミ | ナノ
ゆっくりと唇を重ねれば、苦い顔をする妹が視界に収まった。
僕の愛情表現気に入らなかったのかな、なんて少し眉を下げれば同じ色をした黄緑色の目を閉じちゃうんだ。
ころりとしたキャンディみたいな綺麗な目が見えないのはとってもつまらない。僕は菟雨の、僕と同じ色をした目がとっても好き。
綺麗な目を覆う瞼をそっと舌で舐めれば悲鳴にも似た恐怖の声が聞こえてくる。僕はその声が堪らなく好き、泣いている時や呻き声にも劣らない位好き。
「甘かったでしょ」
なんて意味のない問いかけをしても菟雨は何も言ってくれない。怖いのかな、大丈夫痛いことはしないよ。
菟雨の手と繋がった右手に力を込める。痛くないように、けど解けないように。
菟雨は手を握るととっても安心するんだ、まるでちっちゃい赤ちゃんみたい。
瞼には僕の唾液がどろどろに垂れて、ちょっとだけ涙みたいに見えてくる。
ちゅ、と吸えば菟雨はびくりと体を震わせた。

「甘かったでしょ?」
二回目の質問。
俯いた菟雨は、多分答えるつもりなんてないんだろう。

「甘かったって言ってよ、ねえ」

握っていた手を解いて、両手で菟雨の顔を無理やりあげる。
ベトベトになった左目の周りと、心なしか赤くなった顔が僕の視界に収まってとっても安心する。
菟雨は口を閉ざしたまま何も言おうとしない。そんなに僕のこと嫌いなのかな、なんて少しだけ残念に思った。

少し前と同じようにもう一度、お互いの唇を重ね合わせる。
菟雨の柔らかい唇はとっても好き、菟雨の全部が僕は好き。
僕は菟雨の事が何よりも好き。だから、名乗りはしても双子だとか兄妹だって言われるのが僕はあんまり好きじゃない。
だって普通の双子はちゅーなんかしないし、こうしてぎゅっとしたりもしないんだもん。
僕たちは悪い事をしてる、その自覚はちょっとだけあるよ。けどやめようとは思わないし、今更止めることなんて出来ない。
菟雨の頭に手を回して、さらに僕たちは距離を詰める。本当に僕たち悪いことしてるなあ、なんて一人で自己完結して。
息苦しさに耐えられなくなって、名残惜しみながらも僕たちは唇を離す。唇を離してもお互いの顔の距離は本当に目の前で、乱れた呼吸がちょっとだけ擽ったかった。

「……素良のちゅーは、嫌い」
「僕は菟雨とちゅーするの好きだよ?だってすっごく甘いんだもん!」

不機嫌そうな顔をする菟雨を無視して、僕は言葉を進める。
唇はマシュマロみたいにふわふわだし、目はキャンディみたいに綺麗だし、唾液はまるでココアみたいに甘くてとろとろだし!
お菓子に例える程菟雨は甘くてとっても美味しい。食べちゃいたいって思うこともあるけど…それは勿体無いからだめ、僕はずっと菟雨と居たいんだもん。
僕がお菓子に例えるたび、菟雨はどんどん不機嫌そうな顔になる。
甘い物に嫉妬してるのかな、それなら「キャンディは菟雨の目みたい」だとか「菟雨の涙みたいなソーダ水が飲みたい」みたいに言えばいいのかな?それもそれで、僕的には悪くないと思うけど。
「甘い物、嫌い?」
なんて分かり切ったこと。菟雨はすぐに嫉妬する、何にだって嫉妬する我儘な子だ。そんなところも、僕はとっても好きだけど。

「……ちゅー、して」
「いいよ、今日だけは我儘聞いてあげる」

ふふ、と小さく笑って菟雨の唇に噛み付く。歯を立てて、少しだけ力を込めれば抵抗の声がくぐもって聞こえた。
お互いに目を閉じて、睫毛が重なり合うくらい近くでこんなに悪い事をしてる。
もしこれが悪いことだって菟雨が気付いたら僕はどうなるんだろう、もっと先の酷いことでもしちゃうのかな。嫌がる菟雨を組み敷くのはきっと素敵なことだと思う、けどそれで僕は満足出来るのかな。
…まあ、先のことなんて僕は何もしらないけど。
ふるふると小刻みに体を震わせる菟雨をそっと抱き締めて、僕たちはまた罪を重ねる。どろりとした唾液が菟雨の口の端しから少しだけ垂れたのがわかった。
菟雨と僕の唾液が混ざって、ぐちゃぐちゃになって一つになる。このまま僕たちも一緒になれたら、きっと素敵なのにな。

たっぷりと菟雨の口内を堪能して唇を離す。
苦しそうに呼吸をする菟雨の可愛さときたらもう!ああもう、なんで僕たちは兄妹なのかな。
虚ろな目で僕を見る菟雨の頬をそっと包めば、菟雨はすぐ安心したように笑うんだ。
僕はとっても満足して、菟雨の頭をそっと撫でる。僕と同じ水色の髪なのに、なんで菟雨の髪はこんなに美味しそうに見えるんだろう。
少しだけ匂いをかげば、キャラメルみたいな甘い匂いを感じた。変なの、同じシャンプー使ってる筈なのに。

「ねえ、素良」
「んー?」
「……まだ、わたしよりお菓子の方がだいじかな」
「ふふ、菟雨は本当にばかだよねえ」
「ばかじゃないよ…」

そう呟いて、菟雨は安心したように僕を抱きしめる。
答え、聞いてないけどいいのかな?まあ、僕に菟雨以上に大切なものなんて何もないけど。
僕はいつだって菟雨が一番大好きで一番大事、だからいっぱいちゅーだってするし好きだって沢山伝える。

菟雨はお菓子じゃない、けど僕は菟雨みたいな味がするからあまぁいものが好きなんだよ。
…そう言ったら、この気持ちはどれくらい伝わるかな。
どんなに好きだって伝えても全然伝わらないんだもん、菟雨は本当に我儘だよね。
ぎゅっと菟雨を抱き締めて「好きだよ」って伝えるんだ。
聞こえないふりだって何時ものこと。
だから僕は、いつだって少しだけ寂しい。


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